鼻濁音
まったく政治とかコロナとは別の「アナウンスメント」に特化した話。
総理大臣が前を向いてコトバを発するようになったら、鼻濁音のきれいな発音が際立って聞こえました。鼻濁音が方言に息づいている東北・秋田のご出身ということですから、ごく自然にお使いになれるのは当然ではあります。
いまこの「鼻濁音」が衰退していっているという指摘があります。確かに放送を聞いていても、例えば助詞の「が」が鼻濁音になっていないケースを多々見かけます。使えば美しく聞こえるのに勿体ないなあと思います。
沖縄でも、宮古島の一部のコトバに使用例がみられるくらいで、しまくとぅばに鼻濁音の使用はありません。しかし、ちょっと指導すれば自然と鼻濁音は使えるようになります。そんなに難しくないものだと思うのです。
「鼻濁音」とは文字通り鼻に音を抜く濁音。一般的には「が行鼻濁音」のことを言います。口内の「天井」には前のほうにある「硬口蓋」と後ろの「軟口蓋」がありますが、「が行鼻濁音」は舌で触ると柔らかい「軟口蓋」で響かせる音。感覚をつかめさえすればあとは使う「意識」だけです。
感覚がつかめない方に私はよく「狼男」になってくださいといいます。怪物になるのです。怪物が映画などで現れるとき、ヌーットは出てきません。大概なにか「吠えて」出てきます。その時の声が狼男の場合「軟口蓋」で響く「んがあ!」なのです。練習ではハミング(口を閉じ、声を鼻に抜いてnnn~と音を出す)から、口を開けて「が行鼻濁音」に移行します。このとき「n」と「g」離れないように[ŋ]で「か゜(鼻濁音の表示)」と出します。
この「が行鼻濁音」が使えると、とっても柔らかく聞こえます。
先日総理大臣は「自分のメッセージをきちんと伝えるんだ」と、初めてプロンプターをお使いになりました。プロンプターとは原稿の文字を目の前に投影する装置のことで、ニュースを読むアナウンサーも使いますが、欧米の首脳が重要な演説の時に使います。(オバマ元大統領で有名になりました)
今回総理はプロンプターを使い、下を見ることなくメッセージを伝えました。前に向かって話された結果、それまであまり感じなかった鼻濁音の美しさを感じたのだと思います。
コトバは「伝える」ためのアイテム。伝えるために人によっては、口だけではなく目もジェスチャーも使います。その前提となるのは「話の内容」であり、「前を向くこと」であり、「人の目を見る」でもあるでしょう。そんな一つ一つが集合体となって「伝わることば」になっていくのではないかと思っています。