なにになるのでしょう
「こちらが商品になります」
丁寧に接客してくださる店員さんが使う言葉遣いです。そんなとき、ふと考えてしまいます。
こちらが商品に“なる”ということは、ひょっとして目の前にあるのは商品の“原材料”なのではないか。これから加工してもっとすごいものが出来上がるのではないか。
実際にはそこまでつっこんで考えることなく、商品を受け取ってお金を払うのですが、この「になります」は、かなり多く使われています。
楽器店にて。
「こちらがオカリナになります」
…なるほど、もう一回焼きを入れて磨きをかけて、製品になるんだなあ。
学校にて。
「この授業の担当は、あしたから火曜になります」
・・・そうか、先生入籍して嘉陽さんになったんだ。
バスターミナルにて。
「13番が空港行きのバス停になります」
・・・じゃあ、今は何番が空港行きのバス停なんだろう。
「なります」を使わなくても「です」で締めくくって何の問題もないのです。柔らかさを出すために接客業での会話から生まれた言い回しなんでしょう。確かにソフトな言い回しではありますが、「商品になります」はやはりおかしい。
映画の字幕を担当する人は、外国語を極力日本人が使う言葉に直して翻訳するわけですが、「ボディーガード」などを手掛けた太田直子さんは著書「字幕屋の気になる日本語」の中で、こうした「~になります」表現を、「言葉の上げ底、過剰包装」としつつも、「話術としては次にしゃべることを考える“時間稼ぎ”としての効用がある」としておられます。ただ、取り澄ました感じがする「ステーキになります」といういい方には“イライラする”んだそうです。
私はこの「なります」表現には、取り澄ましたというより、慇懃無礼を感じてしまいます。
「あんた味わったことないだろうけど、これがステーキだよ、うちの店の…」
そんな響きを感じてしまうのです。これが、一回の会食に7万円を払うことなど思いもつかない私の感想になりマス。