ゆったり、しっとり、まったり
料理番組を見ていたら、料理研究家の方が「茹で鳥はしっとり作りたい」とおっしゃっていました。「しっとり」は英語で言えばwet。適度に湿り気があるさまを言います。物腰を表すときにも使いますが、料理の話ですから前者です。要するにパサパサになることなく瑞々しさを残して状態で調理されたという意味になります。
ビールを飲んだり、ソバを食べるときによく出てくる「のど越し」という言葉も、いまいちつかみきれない言葉です。「日本語大辞典」を見ると、「食べものが口から入って喉を通っていくこと、またその感じ」と書いてあります。ということは、口に入った後、どこでその感覚を感じているのか。食道はそんなに敏感ではないと書いてあります。その証拠が「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざ。喉までが勝負なんですね。つまり飲み込もうとするその瞬間。それが「のど越し」となります。瞬間のことだから、言葉で細かく表現できないのかもしれません。
やたらと取材やリポートで使うようになったのが「まったり」。
30年前に買った辞書を引くと「舌を刺激しない、穏やかな味わい。またまろやかな甘み」と書いてあります。どうも関西発祥の言葉のようですね。この時点では「味覚」の表現だったのです。今は、「 ゆったりしている。のんびりしている」。また、「人柄がおだやか」という意味でも使うようです。色々見ていたら、アニメの「おじゃる丸」が人気になったことが火をつけたのではという指摘がありました。「おじゃる丸」は平安時代の妖精貴族のコドモという位置づけだそうですから、ばりばり関西です。アニメの放映開始が1998年。先述の辞書が世に出たのはその10年後。そこからコトバとしての使い方が変わっていったのは、見ていたヒトたちがオトナになっていくのと被ります。この20数年で日本人に妖精貴族が定着したということなのでしょう。