ジジイの系譜
♬ 村の渡しの 船頭さんは 今年六十の お爺さん
1941年に発表された童謡「船頭さん」です。
先代の三遊亭圓歌師匠も代表作「中沢家の人々」の中でこの童謡に触れていましたが、80年前の感覚では還暦を迎えた男性は等しく「おじいさん」だったのでしょう。
おじいさんの「爺」は、どうもいい印象がありません。悪口を言うときの「このジジイ」とか、「くそジジイ」とか、定番ですよね。自分で使うときは、「こんなジジイでもできることがあるんです」と、ちょっと自虐的に使ったりします。
でも本来、この「爺」という字は「父(ちち)」を意味し、また尊称として使います。「としより」という意味で使うのは、もともとあった漢字にその意味を表す日本のことばを当てた国訓です。この国訓には、本来の意味と違ったものに使うケースもあり、例えば「鮎」という字はもともと「ナマズ」のことです。「鯰(ナマズ)」という漢字は、日本で作られた「国字」です。「鮑」という字も、寿司屋の湯飲みには「アワビ」の意味で「鮑」と書かれていますが、もともとの読みは「しおづけうお」「くさりうお」。「塩漬け」「裂いて乾した魚」あるいは「腐った魚」という意味。もともとの「アワビ」を表す漢字は、日本で「フグ」と読ませる「鰒」です。
話がそれました。「爺」に戻しましょう。この漢字は尊称であると書きました。その証拠に清の時代、皇帝のことを「万歳爺」と呼んでいたそうです。の。バンザイと「爺」いう組み合わせだと、敬老会かなにかをイメージしてしまいそうですが、本来「万歳」は皇帝にしか使わなかった言葉。「皇帝様せめて一万年は長生きを!」というちびまる子ちゃんの前のエンディングテーマのようなコトバなんですね。だからかなり高い地位の人でも皇帝以外は使えなかった。「万歳爺」は最高の敬意を示す言葉ということです。
「老」の字も、敬いをもって使われる字です。もちろん、「としより」という意味もありますが、古い漢和辞典には「特に70以上の人」と説明がつけられています。古希以上ということなのでしょうか。年を多く重ねた人への敬称です。
今年4月から「改正・高年齢者雇用安定法」が施行されますが、ここでは70歳までの就業の機会を確保する努力を企業側に求めています。雇用の形態が変わっていく中、若い経営者が、積み重ねた蓄積に敬意を持って使いこなす意識を持てるか。年を重ねた人にはしっかり健康を維持して、押し付けではなく、蓄積を受け継ぐ伝え方ができるかが問われると思います。
結局、そこに介在するのは「ことば」なのです。