なんで行った?
テレビ創成期を盛り上げた存在に「獅子てんや・瀬戸わんや」のご両人がいた。
1980年まで琉球放送でやっていた「家族そろって歌合戦」の司会も10年にわたって務めあげた。テレビの存在が当たり前になった時期の“ブラウン管”のカオだった。
おれたちひょうきん族で鶴太郎さんがやっていた「たまごの親じゃ、ピーヨコちゃんじゃ。ぴっぴっピーヨコちゃんじゃ、アヒルじゃガーガー」も、元はと言えば、わんやさんのギャグ。小柄なわんや師匠が、腰をかがめながら舞台でやる「たまごの親じゃ…」は最高だった。
歯医者さんネタとか、今につながる「もっと早く」というネタも、確かてんやわんやさんのネタだったと思う。アメリカにもっと早くいくには、太平洋の真ん中にでっかい鉄塔を立てて、振り子の要領で行けばいいというのである。荒唐無稽な話や、ことばのすれ違い。わんや師匠のボケをてんや師匠が大きな声で上からどやし付けるというのが定番だった。
そんな「てんやわんや」の十八番に「何でいったの」というのがある。
(ユーチューブで懐かしいお二方のネタを今でもみられる)
日本語には“どちらとも取れる表現”が結構多い。「“美しい水車小屋の少女”の話聞いた?」と聞かれて、「水車小屋とも思えないほど美しい場所…にいた少女」の話だととる人がいれば、「水車小屋にいたビューティフルな娘」の話だととる人もいる。どう受け取るかで話がおかしくなっていくのである。
「獅子てんや・瀬戸わんや師匠」の「何でいったの」は、話の主体が“行った理由”なのか。“移動に使った乗り物”なのかですれ違いが起きる話。「弟の結婚式で司会を頼まれたので行った」というわんや師匠に対し「ふーん。で、なんで行ったの?」というてんや師匠の切り替えし。「だから弟の結婚式で…」と話を何度も説明するわんや師匠。話がヒートアップしていく。最後は「だから何に乗っていったんだって聞いてるんじゃないか!」とてんや師匠に聞かれて「ああ、新幹線で…」という落ちなのだが、これに近いことは結構日常に転がっている。
あるとき、思いのほかインタビューが長くなってしまった。カメラマンが「急いでテープとってきて」と助手に耳打ちする。会社まで全速力で走って飛ぶように帰ってきた助手が、持ってきたのはガムテープ。カメラマン激怒。必要だったのは撮影用のビデオテープだったのである。頼んだ方は、現場の状況を把握していれば“当然わかる”と思ったが通じていなかった。現場の流れは止めるわけにいかない。カメラマンの怒りもわかる。
だが、「テープ」の前に「インタビューが伸びちゃって撮影しきれないから」と入っていれば、どんな慌て者でもそれが「ガムテ」だとは思わなかっただろう。
時間がたてば「テープ持ってきて」という“ネタ”である。でもその時の当事者にとってはシャレにならない。
「当然わかっているハズ」というのはコワイ。こういうミスは普段阿吽の呼吸で仕事をしているところに潜んでいるのである。