見つけたからって…

各地の気象台が担う業務の中に「生物季節観測」というのがある。

 植物や動物が季節によってどう姿を変え、どう生きていくのかを観測する仕事で、それを見続けていると、自然と季節の変化がわかってくるという。

 沖縄のムシのスペシャリストである琉大名誉教授の東清二さんにインタビューさせていただいたとき、新種であることはわかっているが登録されていない標本が、とりわけ小型のハチでたくさんあるとおっしゃっていた。先生は亡くなられたが、ハチに学名はついたのだろうか。

生き物の名前には「人名」がついたものが多い。

 日本で最も小さなセミである「イワサキクサゼミ」は石垣島測候所の所長で、八重山の自然や文化を研究していた岩崎卓爾の名をとって命名された。岩崎は仙台伊達藩の藩士の家に明治2年に生まれた。ちなみに東京汐留地区の再開発に伴う、仙台藩上屋敷跡の発掘調査の結果、琉球の「酒器」が出土したという。伊達のトノサマも「アワモリジョーグー」だったかもしれない。

岩崎は、1898年に石垣島測候所に赴任して以来、ほぼ40年八重山に根を張り、八重山の自然や民族を研究した。本職の気象では、まだまだ「お高い」存在だった気象を民衆レベルまで引き下げたことで高く評価されている。よほど「はまった」のであろう。途中中央への栄転の話もあったのに「八重山は空が一番美しいところだから」と蹴っている。「イワサキクサゼミ」だけでなく「イワサキホタル」「イワサキコノハチョウ」など多くの“イワサキ”が今も八重山を飛び交っている。岩崎の生きざまは大城立裕さんの原作が復帰の年にドラマ化された。

 八重山といえば、ワタシがまだ若いころ「お天気おじさん」という役回りで元沖縄気象台職員の宮良孫好さんがラジオに出演されていた。いつも唐草模様の風呂敷に分厚い資料を包んで会社にお見えになる。戦時中、沖縄気象台の業務が「特攻」のためだったという話も宮良さんに伺った。そんな宮良さんもご自身の名前の付いたヘビを発見した。

「ミヤラヒメヘビ」である。人当たりもお顔も優しい宮良さんとヘビというのはミスマッチだったが、名前に「ヒメ」が入っていることで納得した。当然ドクのない蛇である。

キクザトサワヘビは1956年に発見された。最初はアオヘビの一種つぃて「キクザトアオヘビ」だったのだが、のちに日本ではそれまで記録がなかった渓流に生息するヘビ、サワヘビ属に属することがわかり、「改名」した。このヘビの発見があまりに強烈だったので、戦前、理科の教師だった発見者の喜久里教達さんのことを、みんな爬虫類の研究家と思ってしまったようだが、そもそも喜久里さんは植物がご専門。県内各地で採集した中から複数の植物が“新種”であることを探り当てた。喜久里さんは「当時の理科の先生というのは、植物にしろ生物にしろ、一つのことd家専門にやってはいられなかった。純粋に学問のためというより、必要上、植物も生物もすべて一通り知っていなくてはならなかった」(『沖縄学の群像』琉球新報文化部編)とおっしゃっている。

日本唯一の淡水に棲むヘビだが、ご多分に漏れず、水質汚染や外来生物のウシガエルなどによって生きていくのが厳しい状態が続いているらしい。

 カエルの種類も多い。冬場に繁殖するミヤコヒキガエルが恋の季節を迎えると、その映像を編集するカエル嫌いのカメラマンが悶絶していたことを思い出す。

 カエルの名前にも人名がついている。グリーン基調の色鮮やかなオキナワイシカワガエルの「イシカワ」は動物学者の石川千代松氏からきている。ワタシは沖縄本島中部の旧石川市(現うるま市石川)に多く生息しているのかと思っていた。

 一方で、在来種のカエルが多いにもかかわらず、その名前はやたらとカタカナが多い。

 ホルストガエル、アイフィンガーガエル、ハロウエルアマガエル。こんな名前だがれっきとしたシマのカエルであ

る。採集した学者の名前なのだ。ホルストガエルなんか、学名を訳すと「ホルストさんのカエル」になるらしい。

 アイフィンガーガエルは八重山から台湾にかけて生息するカエルで、日本で唯一の子育てをする蛙である。クワズ

イモの根元に溜まる水などに卵を産んで、母ちゃんは卵の周りを警備し、生まれたばかりのオタマジャクシに無性卵

を生んで餌としてあたえるのだそうだ。アイフィンガーとは何の指だろうとググってみたら、オランダの壁紙メーカ

ーが出てきた。どうやらこれも欧米の研究者の名前らしい。指先に目があるカエルではなかったのはちょっと残念で

もあった。和名も一応あって、「ホネナガキガエル」というのだが、今度はどこで切っていいのかわからない。「骨長

き・蛙」なのか、「骨長・黄蛙」なのか。ルックスはマンガのようにかわいいが、黄色くは見えない。まさか「骨長・着替える」ではないであろう。責任者に出てきてもらって意味を教えてほしい。

 ハロウエルアマガエルも日本の両生類などを研究したハロウエルさんという学者の名前をとっているらしい。

 正直、沖縄の在来種なのにカタカナの名前というのはどうも腑に落ちない。昔呼んでいたようにイシカワガエルや

ホルストガエルは「ワクビチ」という島の呼び名で言ったほうが何となくすっきりする。

 いずれにしても名前を付けられたカエルたちに責任はない。

2020-07-10 | Posted in UncategorizedNo Comments » 

関連記事

Comment





Comment